国産考
国を富ましむる経済は、まず下民を賑はし、而して後に領主の益となるべき事をはかる成るべし。第一成すは下にあり、教ふるは上にありて、定まれる作物の外に余分に得ることを教えさとしめば、一国潤ふべし。
此教ふるといふは、桑を植ゑ養実の道を教え、あるひは楮を植ゑしむる事ども成。然れども土地に厚薄あり、山川に肥度あり、尚更南北の寒暖異なれば、其の事に委しき人を選び習はざれば、徒に土地と人力を費すのみならず、損毛ありて土地に罪を負はすることあり。是を熟得して行うときは、国富まずと云う事あるべからず。抑点地の造化を助け、無用の地を助けひき、其土地相応の利潤のある良木を植ゑ尚足らざるを補ひなば、年々に富まさりて、五穀あまり、材用を天地の間に満たしむべし。
都て諸の産物となるべきものを選び植ゑなば、各生ぜずということなければ、下民にありては金銀を閉塞して子孫に譲らんより山野に良材を植ゑ育て譲るることを心がくるは、万金の計算なるべし。或國に貧寺ありて住職すべき僧なきを、旦越の人山をもとめ其寺に寄付し、杉檜を数万本を植ゑけるが、廿年を待たずして追々成長の材木を伐りて買りはひけるが、終に福寺となりて堂塔を修復したることあり。
是等の事または諸国にて国産を行はせらる々ことありしかど、中途にして廃することを見及ぶこと多し。依りて僕が才の拙きを恥じず、諸国の遊歴から見聞したることども下記つづりて、おこがましくかま題して先に二巻を著す。尚続いて数冊を編纂せんことを念ふ。只一事にても農家の益となるべき見当ともなる事あれば、幸ひ是にしかざるべし。