これの日いづる國はいつらのこゑのままにことをなして、よろづの事をくち豆からいひ伝へるくに也、それの日さかる國は万づの事にかたを書てしるしとする國也、かれの日の入國はいつらばかりのこゑにかたを書て、万づの事にわたし用いる國也、かかるに此くににのみかたを用ざるを疑ふ人あるはいまだしかりけり、なぞといはば、日放る國人は巧みなる事を好むより、言もおのづから一こゑのちに多きことわりのこもれれば、かたなくはことゆかじ、されども千よろずの声に繪を作れるはうたてあり、日の入國はこまやかなる思ひかねを好むからに、事も音も従ひてさはなれば、こもかたを用めり、されどもただいつらばかりの音のかたもて万づにうつしゃるべくせしは、こまやけく思い兼たる也、これの日出る國はしも、人の心なほかれば事少く言もしたがひてすくなし、事も言も少なければ惑ふこともなく忘るる時なし、故天つちのおのづからなるいつらの音のみにしてたれり、なぞも人の作れるかたを待てものをなさめや、しか有を此いつらの音をつらねいふは、日の入国にならへりといふ人有こそうこなれ、此國の古へ人こととはざらんや、こととふは天地のちちははの教え也、かれしらずしらず此いつらの音もあるめり、且しか思ふ人は時代をも思はず、おのが國のふることをしらで、他の國の事をなまなまに聞いていへる也。
加茂 真淵 ( 語意 ひとつ )「語意・書意」
加茂 真淵 ( 語意 ひとつ )「語意・書意」