「だがそれは」とソークラテースは言った。「将軍学の一小部分に過ぎぬ。なぜかというと、将軍は戦争のための軍備一切をととめえ、そして兵士たちに糧食を供給できなくてはならなぬし、それから奇策縦横で活動的で注意細密でなくてはならず、柔和でるとともに残忍であり、率直であるとともに策謀的であり、用意堅固であり攻撃的であり、その他たくさんのことに、あるいは生まれながらに、あるいは学習によって、参軍を率いんとする者は練達しててなくてはならぬ。軍列の配備に長ずるのはもとより良い。なんとなれば軍隊は陣列の見事に配置されたのは、でたらめなのとくらべて、大変なちがいだからだ。それはあだかも石と煉瓦と木材と瓦とが乱雑に投げ出されてあるのはなんの役にも立たないが、これに反して、腐ること崩れることのない石と瓦とが下と上に配置され、中間に煉瓦と材木とか、建築におけるごとく組み立てられると、そのときはまことに価値のある財産、家が出来上がるに等しい。」とソクラテースは言った。
「そうです」と青年は言った。「ソークラテース、おっしゃるとおりです。なぜと言って戦争ではもっとも強い兵士を先頭と殿にに配置し、中間にもっも弱い兵士を入れ、こうして先頭にみちびかれ殿に追い立てられるようにしなくてはならないからです。」
「そうだ、もし彼が優秀な兵士と劣等な兵士の見分け方を教えたならそれでよい。しかしそうでなかったなら、君の学んだことがなんの役に立つのか。たとえば、もし将軍が君に命じて、もっとも上等な銀貨を先頭と殿とにおき、中間にもっとも下等な銀貨を入れるように言って、真物と贋金との鑑別を教えなかったならば、君はなんの役にも立つまい。」とソークラテースは言った。
クセノフォーン「ソクラーテース」の思い出