言語を形づくる基本たる一つ一つの音の単位は、単語のように無数にあるものではなく、或る一定の時代または時期における或る言語においては或る限られた数しかないのである。すなわち、その言語を用いる人々は、或る一定数の音単位を、それぞれ互いに違った音として言いわけ聞きわけるのであって、言語を口に発する時には、それらの中のどれかを発音するのであり、耳に響いて来た音を言語として聞く時には、それらのうちにどれかに相当するものとして聞くのである。もっとも、感動詞や擬声語の場合には、時として右の一定数以外の音を用いることがあるが、これは、特殊の場合の例外であって、普通の場合は、一定数の音単位以外は言語の音としては用いることなく、外国語を取り入れる場合でも、自国語にないものは自国語にあるものに換えてしまうのが常である。
かように或る言語を形づくる音単位は、それぞれ一をもって他に代え難い独自の用い場所を有する一定数のものに限られ、しかも、これらは互いにしっかりと組み合って一つの組織体または体系をなし、それ以外のものを排除しているのである。
橋本 進吉 (国語音韻の変遷)「古代国語の音韻に就いて他二編」
橋本 進吉 (国語音韻の変遷)「古代国語の音韻に就いて他二編」