2017/02/16

自らを慰め微かながら時代を憂い嘆いた市民の声

二・二六事変(1936年)
 重大なこと起れるにかかはりのなきが如く人ら往きかへるも
スペイン動乱(1936年)
 ひとつの国の民らたがひに敵となり戦はねばならぬものありといはむか
事変(1937年)
  いつの世になりたらば戦のやむならむ尽くることなきたたかひを思ふ
欧州大戦序曲(1939年)
  陥落を伝へしワルソウに女子供もあわれ銃をとり死守しいるとぞ
ノモンハン高原(1936年)
  コロンバイルに戦ひ死にし同胞の一万八千あまりかなしも
欧州大戦図(1940年)
  ほしいままなる人類の惨虐地の上にのこしてこの年五月は去りぬ
独蘇開戦(1941年)
  戦は童ら地に線描きて国取りするが如く思はゆる瞬間があり
戦う世界(1943年)
  ドイツ軍神にしあらねばスターリングラードに重囲のなかに陥りにけり
イタリア崩壊(1943年)
  いまの現にわが生きわりてまさに見るファシズム・イタリア崩壊の日
欧州上陸作戦(1944年)
  この月のかけにつつまた満ち照らむまでに戦争のやむとしいはば
焦土(1945年)
  大爆撃に一夜のうちに焼け果てし市路に立ちて声さへ出でず
暁光(1945年)
  真夜ふかく極まるときし東の暁の光のただよふにかあせし

南原 繁「歌集『形相』」